金魚警報(再)

140字を水で薄めるところ

『恋愛ラボ』10巻・加筆修正と雑誌掲載時の比較

恋愛ラボ』単行本巻末には「~の掲載作品を加筆修正の上、収録いたしました」という文言が付されていますが、実際に雑誌掲載時とはどの程度の違いが見られるのでしょうか。私(以外に)、気にな(っている人がいるのか図)(かね)ます(が)! 

恋愛ラボ (10) (まんがタイムコミックス)

恋愛ラボ (10) (まんがタイムコミックス)

 

というわけで今回は最新10巻掲載分を見ていこうと思います。画像比較の際は左が掲載誌「まんがタイムスペシャル」から、右が単行本からの引用です。

・・・結論から言いまして宮原先生、月刊連載を2本(時に3本)並行してこなしてたりと何気にかなりの速筆作家だと思うんですけど、その筆の速さは単行本修正にも大変良く表れておりました。

 

p11 3コマ目:背景の展示品修正

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最も多く見受けられるのが、このような背景の描き込みの追加。このコマをはじめ、同様の修正は以降もいくつか見られます。

p15右2コマ目:背景にモブ男子追加

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ヤンとナギのやり取りを追うコマなので、正直一読目では気づきませんでした。モブ男子は単行本と、彼らのエピソードが掲載された「まんがタイム」にしか登場しておらず、「タイスペ」の方には一度も出ていないんですよね。単行本読者へのささやかなサービスと言える粋な加筆です。

p15左1コマ目:アンケート用紙に影追加

p19扉絵:ダッキー影追加

p19 2コマ目:視線矢印に白い縁取り追加

p21左1コマ目:「スズ兄の会社~」テロップがコマ中央上部から右下に移動

雑誌の方はあまり『恋愛ラボ』では見ない文字の配置でした。

 p22右4コマ目:描き忘れ?スズ眼鏡追加

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眼鏡までブッ飛ぶこの衝撃…!的な表現ではなかったようで、単行本ではきっちり着用しています。 デフォルメ顔とはいえ、眼鏡差分スズが拝める貴重な1コマ。

p23右4コマ目&同左4コマ目:書き文字修正

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力強く掴まれた様子が伝わる表現に。

p27~:縮尺変更?

この特別編は全体にわたってページの縮尺が上手くできていなかったようで、雑誌掲載時に見きれていた部分が単行本ではきっちり印刷されています。例えばp31下部の「はっぴ~ば~すで~」の描き文字は雑誌だと隠れていたりします。

p29 5コマ目:兄様の独白に吹き出し追加

p33:擬音「パッ」追加

p34 6コマ目:リコ、マキの口元修正

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同時に前髪も微修正+手元の輪っかにトーンも入りました。

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口が閉じ、手元の謎の線が消えました。汗も追加。このコマにはサヨとスズも描かれていますが、修正が見られるのはこの二人だけです。

p39左4コマ目:ヤンの台詞に改行

p46右3コマ目:生徒会モブ台詞表記変更

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「珍し」と漢字表記になり、全体的に描き文字のボリュームが少し抑えられました。生徒会モブ子さんかわいい。

 

同左1コマ目:ヤンのメール描き文字→活字に

同左2コマ目:リコ、マキの瞳にハイライト追加、スズ目トーン→白抜き

スズ白目多い…。

p48右1コマ目:貼り忘れ?エノ制服トーン追加

同左2,4コマ目:ヤン、ナギトーン変更

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呪いの禍々しさが増した気がします。このトーン、『河合荘』でより多用されている印象があるのですがどうなんでしょう。

 

p57右3,4コマ目、同左1,4コマ目:リコ、ナギにトーン追加

p60右4コマ目:ヤンの台詞微修正

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単行本では「日常的に」という枕詞が付き、一層俗っぽさが過ぎる表現に。 

p72左4コマ目:ナギ、ヤンの台詞変更

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ナギのごまかし方と、それに対応するヤンのツッコミが変わりました。オチが異なる修正は珍しいです。

p75 3コマ目:写真の描き込み追加

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この回は雑誌掲載時は全体的に画面が白く、その分トーンなどを施した修正が多く見受けられます。本編と並行しての特別編連載(+『河合荘』)、おつかれさまでした・・・!

p75 5コマ目:リコ母の瞳にハイライト追加

p78:トーン追加

人物背景問わず、それはもう全体的に。

p79 3,4コマ目:ナギ、リコに影トーン追加+増毛

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トーンによる影の追加だけでなく、跳ねた髪の毛が微妙に増えています。お話の肝であるナギとリコがバトンを繋ぐ印象的なこのシーンは、雑誌掲載の段階で既に表情や動きが描き込まれていたため、他のコマの白さと対照的でとても際立っていました。

p80 1コマ目:アナウンスの描き文字が活字に

この辺りのシーンでもトーンが増し増し。

p87左2,3コマ目:吹き出しの透過処理がなくなる&影追加

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画像は3コマ目。吹き出し内に汗の漫符も追加。台詞が強調され、画面が見やすくなりました。またリコに影が差し、全体的なコマの白さも解消されました。

p100左1コマ目: 時計の影追加 

p102:描き下ろし

クッキー作りを終えて帰宅するリコとマキの一幕。マキの「私の作ったモノしか食べたくなくなる魔術のようなレシピ♡」の台詞はこの後の加筆部分で拾われることになります。 

p104左4コマ目:ナギの背景の丸トーンにハイライト追加

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リコの驚きと喜びの混じった反応を受けてのナギの表情。間違い探しレベルの修正ですが、伝わってくるナギの感情が大きく変わってくる気がします。

 p106左3コマ目:ヤンの台詞に怒りの漫符追加

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漫符が付くことで呆れの台詞がややコミカルな印象に。普段通りのやり取りだからこそ「久しぶりに話した気がする」というヤンの独白に繋がります。とはいえ、そんな感情をしみじみと噛みしめるヤンの様子が窺える漫符無しの方もそれはそれで。

p108左~p109右:コマの入れ替え&行間コマ加筆

この部分は非常に説明しにくいのですが、雑誌掲載時は一本の4コマで完結していたヤンの謝罪のくだりが、単行本では4コマ2本分に再構成されています。p108左3,4コマ目が雑誌ではそれぞれ1,2コマ目に据えられており、またp109右3,4コマ目が雑誌での3,4コマ目にあたります。前者は加筆修正はなくそのまま、後者は構図や台詞のニュアンスが若干異なっています。 

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このコマではマキの表情が正面から描かれることとなりました。かわいい。

このほかに特筆すべきはp109右1コマ目。マキの台詞(?)が雑誌掲載時の「・・・」から「――!」に変更されており、ヤンの不器用な謝罪をこの瞬間に察したことがわかります。相手のことを思っての行動が誤解に繋がり、お互いに距離を置く→逡巡を経てコミュニケーションを図ることですれ違いが解消に向かう、という一連の流れは他者との関わり方や人間関係を主題とした(と個人的に思っている)宮原るり作品の肝なので、マキの喉の小骨が一つ取れる重要な場面として、単行本化にあたり丁寧な描写がなされたのかなと思います。ヤンに対して、また読者に対して見せるマキのはにかんだ表情は、誤解が一つ解決に向かうクライマックスシーンをポジティブに演出する、大変素晴らしい加筆修正だと思いました。

p110左~p111:描き下ろし

雑誌掲載時は右側の4コマでエピソードが終了となっていましたが、新たにその後のやり取りとして4コマ3本が追加されました。「魔術はかかってないですよ!?」というマキの台詞は上述のp102加筆ページでのやり取りを受けてのもので、コミカルなロングパスが成立しています。また雑誌掲載時はp110右4コマ目にあったUK王子のメールの末文(「あっこのメールは~」)が同左2コマ目に移動しています。加筆ページにより次巻を待たずしてマキが骨抜きにされてしまいました。アニメで観たいぞ。

 

…以上が10巻における加筆修正部分でした。2013年9月号掲載分以外は全ての話数で何らかの変更点が見受けられ、単行本化に際し非常に多くの部分に手を加えられていたことが分かります。探せばさらに細かな違いが見つかるかもしれませんが、大きな変更点は全て拾えたのではないでしょうか。 

まとめると、背景の書き込みや人物のトーン、ハイライトの追加といった修正が主ではあるが、人物に関しては表情などの作画修正はほとんど行われない(=雑誌掲載の段階で既に丁寧に描かれている)、重要な心理描写がなされる場面においては作画だけでなく構成や台詞にも手が加えられることもある、台詞の改行や描き文字/活字の変更、心理描写用トーン(?)の変更など画面のバランスを意識した修正も見受けられる…といったところでしょうか。そしてお分かりの通り、表情ややり取りに加筆が入るのはリコ、マキ、ナギ、ヤンの4人。モブ男子が言うところの「俺達と明らかに線数違う」人たちです。今巻のエピソードの中心となったのがこの4人だったから、といえばそうかもしれませんが、やはり主役の二人+関係の深い二人の間に発生する感情・心情の機微の表現するにあたり、より細やかな描写が求められた結果なのだと結論付けたい次第です。サヨなんて修正箇所0ですからね…!

ということで以上が『恋愛ラボ』における「加筆修正の上、収録」の正体でした。該当する「タイスペ」が手元に無いので9巻以前の差異は把握していないのですが、加筆修正の傾向として上で見たものと大きく外れてはいないと思われます。いつか『河合荘』も把握したいところですが、「アワーズ」は保存していないのでどうしたものか…。