金魚警報(再)

140字を水で薄めるところ

『僕らはみんな河合荘』6巻・雑誌掲載時と加筆修正の比較[前編]

以前『恋愛ラボ』10巻を引き合いに宮原先生の恐るべき加筆修正量を見たわけですが、4コマとは異なる魅せ方が要求される『河合荘』においてはどのような変更点が見られるのでしょうか。わたし気になります!

『恋愛ラボ』10巻・加筆修正と雑誌掲載時の比較 - 金魚警報(再)

ということで『僕らはみんな河合荘』単行本最新6巻と掲載誌「ヤングキングアワーズ」における内容の異同を見て行きたいと思います。話数及びページ数は単行本に準拠、画像比較の際は左が「アワーズ」、右が単行本となります。

恋愛ラボ』と異なり『河合荘』では加筆修正が施された旨が単行本巻末に記載されていないのですが、それが不思議なぐらい随所に手が加えられておりました。

 

・第1話(「アワーズ」2014年4月号掲載)

p5 3コマ目:宇佐のパーカーに模様追加

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雑誌掲載時はこの右頁のコマでしか描かれていなかった宇佐パーカーの模様?絵柄のプリントが、以降の全頁にわたり追加されました。周りのトーンが薄いので英語部分はちょっと解読できません。

p5 4コマ目:宇佐台詞の書体が白枠黒文字→白文字に

p6 5コマ目:宇佐台詞変更

「キスぐらいなら別にっっ」→「キスぐらいなら まぁ大した事じゃないけどっ」雑誌掲載時は強がっていたU.S.Aさんもこの通り。冒頭から宇佐修正3連発。

p7 2コマ目:律台詞が白枠黒文字→白文字に

p8 1コマ目:

このコマでは5つもの変更点が見られます。レッツシンギング。

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正解は店員台詞修正「502号室へどーぞー」→「302号室へどうぞー」、麻弓アホ毛追加 、住子帯模様追加、彩花台詞微修正「1人で鬼予約とかしんじらんなーい」→「一人で鬼予約とか信じらんなーい」、+上述の宇佐パーカー加筆の計5箇所でした。このコマは宮原先生による代表的な加筆修正の例が複数見られる象徴的な一コマとなっています。

号室が変更された意図は図りかねますが、以降背景に登場する部屋番号表示の札も3階フロアに統一されています。p14 4コマ目のみ背景の部屋番号表記が508、509となっており、宇佐と律ちゃんが飲み物を買いに来たのが5階フロアであることがわかります。そこまで行かないと自販機がないカラオケ店…!

この麻弓さんのように撥ねた髪の毛が追加されたりボリュームアップが施される魅惑の増毛体験的加筆はぶち抜きや大コマで多く見られ、『恋愛ラボ』でも同様の加筆が見受けられました。住子さんの帯は白から黒地に水玉へと変更され、以後該当する全てのコマで修正が施されています。こちらも併せて描き込み量の強化という真っ当な加筆修正と言えましょう。彩花の描き文字台詞の微修正は、『恋愛ラボ』での例を考えるとどちらかと言えば表記の変更よりも描き文字の字体やバランスの修正がメインなのではと思います。

p9 1コマ目:モニターの曲名/歌手表示が描き文字→活字に

同時に表記が雑誌掲載時の「斉藤和義」(「和」の字が吹出しで8割ほど隠れる)から「斉藤義和」に変更。また同コマの彩花の服にしわ追加。

p9 2コマ目:宇佐台詞に描き文字「しぶい」追加

p9 3コマ目:モニターの曲名/歌手表示が描き文字→活字に&擬音「パッ」描き直し

p10 1コマ目:彩花足音の表記変更「トン トン」→「トン❤ トン❤」

p10 2コマ目:彩花の頬にトーン追加

彩花先生のあざとさに磨きがかかる。

p10 4コマ目:宇佐の口が消える

p10 5コマ目:宇佐独白「レパートリー広いっすね 人格の」→台詞に変更、同時に口が一本線→半開きに、彩花服しわ追加、ソファーしわ削除

p10 6コマ目:モニターの曲名/歌手表示が描き文字→活字に、擬音「パッ」追加

p10 8コマ目:彩花目元にトーン追加

このページの修正、尋常じゃない量です。

p11 2コマ目:テーブルの影トーンのはみ出し修正、端末の移動線が増量

p11 3コマ目:麻弓台詞の書体が白枠黒文字→白文字に

p11 4コマ目:麻弓台詞「シロの分際で歌う気か・・・?」描き文字→活字に

p12 2コマ目:麻弓・チャーミーさんの震え線増量

p12 4コマ目:律服に影追加

p13 1コマ目:宇佐服に背景と同じトーンが追加

すごい一体感を感じる

p13 2コマ目:宇佐台詞中の「心」にふりがな「ハート」追加、シロ服にプリント「世間体」追加

p14 1コマ目:宇佐服にしわ・影追加

p14 5コマ目:律スカートにしわ追加

p14 6コマ目:部屋番号札に番号表記追加

p15 1コマ目:男女に影追加、男のピアスが2つに

p15 5コマ目:男女丸人間→髪や服の加筆

p16 1コマ目:男台詞が台詞の書体が白枠黒文字→白文字に

p16 2コマ目:擬態語「びくっ」黒→白抜きに、宇佐「!?」削除

またp16 1コマ目~4コマ目の登場人物の服・髪に線・トーンが追加されています。

p17 1~4コマ目:

ここまで見てきたように、人物への細かな書き込みの追加が多く見られるわけですが、中には間違い探しレベルのものもあり、この場面などは良い例だと思われます。

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1コマ目:宇佐髪加筆、首元影追加、パーカー模様追加、人差し指微修正、2コマ目:律瞳にハイライト追加、3コマ目:首元・襟の影追加、といった具合です。トーンやベタ、斜線による影の描き込みは『河合荘』において最も多く見られる加筆事項ではないでしょうか。人差し指は画像だと拡大してもらってもわかりづらいかもしれませんが、おそらくわずかにはみ出した線への対処だと思われます。

p17 4コマ目:「え!?」吹出しにトーン追加

p17 5コマ目:部屋番号追加

p17 6コマ目:部屋番号表記508 509(反転文字)→305 304に変更

p17 7コマ目:部屋番号追加

p17 8コマ目:律髪ボリュームアップ、白ツヤ追加

p18 3コマ目:麻弓胸元トーン貼り忘れ修正、しわ追加

p18 4コマ目:麻弓前髪黒→白抜きに

p19 1コマ目:麻弓髪、服に影追加

p19 2コマ目:宇佐・律の髪、服に影追加

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雑誌掲載時は律ちゃんの後ろ髪が消失していました。

p19 3コマ目:住子髪に線追加

 p19 4コマ目:台詞変更

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麻弓さんの住人に対する認識が少し柔らかくなりました。それでもクエスチョンが2つ付くあたりが麻弓さんクオリティ。

p19 5コマ目:宇佐・律の髪、服に影追加

p20 1コマ目:麻弓目元にトーン追加、律追加

雑誌掲載時は律ちゃんがいませんでした。

p20 4コマ目:男女にトーン追加

 

ここまでが第1話における主な加筆修正点でした。…1話ながら既に『恋愛ラボ』一巻分に迫る分量であるという驚愕の事実。全8話収録なのでこのような加筆修正があと7話分あると思っていただければ。宮原先生、この単行本作業だけでどれほどの時間を費やしておられるのかと、考えるだに恐ろしいです。ついでにこれらの把握に自分がどれだけの時間を費やしているのかについても冷ややかに察していただければと思います。いいんだ、楽しいから…。

そういう事情なもので第2話からは登場人物の髪や服、瞳などへの加筆については基本言及しないかたちで進めていきます。2、3コマに1コマぐらいの割合で何らかの手が加えられていると思ってください。

 

・第2話(「アワーズ」2014年5月号掲載)

p26 4コマ目:麻弓裸眼→眼鏡着用

貴重なカラーページで眼鏡差分麻弓さんが拝めます。次ページ1コマ目の眼鏡を掛ける動作をしている麻弓さんは単行本でもそのままになっており、修正前の名残をそこに見ることができます。

p30 4コマ目:酒瓶のラベルに文字「辛口 二千盛」追加、桜増量

余談ですが岐阜の地酒「三千盛」は実在します。

三千盛 純米 1800ml

p32 3コマ目:麻弓台詞中の「桜臀部」にふりがな追加

p32 4コマ目:桜増量

p34 4コマ目~p36 4コマ目:描きおろし

ここでは宇佐と律ちゃんの関係に対する麻弓さんの心境が掘り下げられています。「2人がダメになった方がいいの?」という住子さんの問いかけは、青春ぶち壊し隊長として暴虐の限りを尽くしてきた(?)麻弓さんに対して抱く読者の疑問と重なるようにも思いました。ページ単位の加筆ではなく、雑誌掲載時はp34の4,5,6コマ目がp36の5,6コマ目の位置に据えられており、コマとコマの間に麻弓さんと周囲のやり取りが挿入という特殊な形式をとっています。つまりはp34の3コマ目の次がp36の5コマ目になるという繋がり方になっているわけで、ちょっとした職人芸が展開されていると言えます。

p38 3コマ目:「焦りは禁物」の吹出しの変更

○型の吹出しから心中思惟を表す吹き出し(名前あるんだろうか)に変更されています。この変更により宇佐のモノローグであることが判明しましたが、雑誌掲載時は次のコマと合わせてシロさんのモノローグだと捉えることもできました。が、「焦りは禁物」に対する「意識改革が必要」となるのでやはり宇佐のモノローグでないと不自然…と今気づきました、はい。

p39 2コマ目:クラスの表札が描き文字→活字に

p39 3 コマ目:モブにトーン追加

p39 6コマ目:前村笑い声「あははっ」追加

p41 7コマ目:吹き出しの透過がなくなる

 

第3話(「アワーズ」2014年6月号掲載)

p53 1コマ目:彩花台詞に吹き出しが付く+活字に

p53 2コマ目:宇佐の台詞が宇佐の右下→左下に移動

p53 5コマ目:麻弓台詞「はぁー!?」黒→白抜きに

p54 1コマ目:麻弓台詞「万が一モテキなら潰す」の中に「すみやかに」追加

麻弓さんらしい悪即斬な形容動詞が。

p55 4コマ目:宇佐台詞が描き文字→活字に

p57 3,4コマ目:宇佐台詞の文字と吹き出しの白黒反転

p57 5コマ目:宇佐台詞白黒反転、宇佐、麻弓追加

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これはちょっと珍しい加筆かもしれません。

p60 2コマ目:シロさんの足追加

でも一本線なのだった。ヒャッホゥ!

p60 4コマ目:佐久間台詞→活字・ナレーションに

p60 4コマ目:麻弓表情変更

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酒ヤケ感は減りましたがより切実さが増しました。

p61 1コマ目:背景に擬音追加

後ろで佐久間のブレイブストーリーが。 

p61 6コマ目:父親デザイン変更

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第6話に1コマだけ登場する探偵っぽい紳士と似ているからでしょうか。

p63 4コマ目:描き文字「HAPPY♡BIRTH DAY」、プレゼント追加

p64 4コマ目:麻弓台詞変更「おー」→「おーいいぞ」、シロ「いやっふー」太字に

 

・第4話(「アワーズ」2014年7月号掲載)

p70 1コマ目:シロ台詞「ほばくー」追加

p71 2コマ目:宇佐台詞?白黒反転

p78 4コマ目:宇佐の輪郭修正

雑誌掲載時はよりデフォルメが強い表情でした。

p84 1,2コマ目:広瀬、律、前村の瞳にハイライト追加

放課後の青春模様に皆の目もきらっきら。

 

ということで1~4話までの加筆修正をざっと見てまいりました。第1話の異常な修正量を思えば第4話などはやや控えめに映ります。まとめは後半部分を概観してからにしますが、ひとまずここまでの加筆修正の特徴としては『恋愛ラボ』で見たものと大きく異なるものではないと言えるでしょう。分量の違いは4コマと対照的に断ち切りが多く、ページの隅々まで絵が描き込まれているからという単純な理由に起因していると思われます。

少し間が空くかもですが、後編へと続きます。