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金魚警報(再)

140字を水で薄めるところ

『僕らはみんな河合荘』6巻・雑誌掲載時と加筆修正の比較[後編]

ずいぶんと空いてしまいましたが、前回の続きです。引き続き細かな線の修正には言及せず、主な加筆修正箇所について見て行きたいと思います。

 『僕らはみんな河合荘』6巻・雑誌掲載時と加筆修正の比較[前編] - 金魚警報(再)

 第5話(「アワーズ」2014年8月号掲載)

p87 4コマ目:律の目にハイライト追加

p92 4コマ目:文字「妖怪ネコロ」追加

今巻の奥付にも描かれているネコロさん。ネネコさんの魂が宿っているに違いない。『恋愛ラボ』ではリコの鞄に付いているキーホルダーとして登場しており、9巻巻頭の人物紹介でも触れられています。今回の登場により宮原作品を横断する数少ないキーアイテムとなりました。背中(?)にも目が付いている事が判明。

p95 2コマ目:宇佐(似の新人)ネクタイにトーン追加

p102 7コマ目:律の全身黒塗りに

p103 5コマ目:広瀬の表情追加

名前が登場するのはもう少し後のことなので、この段階ではまだ律ちゃんを取り巻くクラスメイトの一人としてもモブとしても中途半端な立ち位置です。

p104 1コマ目:律のメールが描き文字→活字化

p107 3コマ目:擬音「ばっ」線の囲いが追加

p107 6コマ目:律の足音の擬音「タッ」追加

急いで来たんだなぁと思うと阿呆らしくも切ないシーン。

p108 2コマ目:前村のスカートにトーン、宇佐の靴に黒塗り部分追加

p110 2コマ目:擬音「ぷ」文字と枠の白黒反転

 

第6話(「アワーズ」2014年9月号掲載)

p113 2コマ目:住子台詞変更「優しいの?」→「その『優しい』は新しいわねー」

p115 2コマ目:住子台詞変更「優しいの?」→「新しいわー」

麻弓さんのボケへの応対が明らかに小慣れつつある住子さん。

p120 1コマ目:ツネコ台詞「今ファッション戻ってきとるからって」追加

バブリーな化粧は会社の先輩のせいだったのでした。

p120 4コマ目:通行人追加

長良川沿いから臨むこの背景は実在の風景から起こしたものと思われ、河合荘御一行が向かった温泉施設が長良川観光ホテル石金(がモデルの施設)だということが分かります。

p122 2コマ目:宇佐台詞変更「ハイ ソウデス」→「ウン ミナイネ」

p126 1コマ目:麻弓台詞変更「現実にはどこにもねーからな」→「現実にはどこにもねーから騙されないよう気をつけろよ!」

p129:描き下ろし

Uターン就職を巡る彩花とツネコのやり取りに描き下ろしページが追加され、彩花の過去の一端が詳らかになりました。このページの挿入に伴い前後のページにも変更が見られ、ここでも構成の妙が炸裂しています。p128左下のコマのツネコの台詞が「卒業したら帰ってくるって約束しとったやん」→「だって家出るとき」と変更され、描きおろし場面への導入となります。そしてp130の1コマ目も前ページでのやり取りを受けての台詞に変更されています。つまり 

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雑誌掲載時はこのように連続する流れだったものが(左→右)、単行本化にあたり間に1ページ追加され、その前後にあたるこの二コマにも修正が施されたということになります。描写自体を変更するのではなく台詞と表情に少し手を加えることで自然な会話の流れを切ること無くエピソードを展開していく様はやはり職人芸であると唸らざるを得ません。

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描きおろし場面では卒業後田舎に帰るという約束を「そんなの守るわけないじゃん」と改めて一蹴する彩花ですが、それを受けてなお「嘘だよ」と穏やかな眼差しを浮かべ言い切るツネコが印象的で、彩花に対する厚い信頼が窺える場面となりました。不意を打たれたような表情の彩花と対照的に映ります。たった1ページの挿入で彩花のバックボーンが語られると同時に、ささやかなやり取りからナベツネの関係性を見ることができるという面白さもあり、個人的にとても好きな加筆修正箇所です。

p132 4コマ目:ツネコ指にトーン追加・画面の文字が大きくなる

同7コマ目:左の人物に目が追加

 

第7話(「アワーズ」2014年10月号掲載)

 p161 1コマ目:林の鞄アクセサリーに描き込み追加

ハート型のキーホルダーにKの文字…和成のKに違いない。

同:林ぶち抜きがコマの隙間に進出(?)

f:id:sail_kamihitoe:20150301125134p:plain f:id:sail_kamihitoe:20150301125152p:plain間違い探し。

同 4コマ目:描き文字「ケッ」描き直し

同 7コマ目:椅子にトーン追加

p162 3コマ目:妖怪ネコロのイヤホンジャックの位置変更

p171の3コマ目に同じカットが貼られていますが、こちらは雑誌掲載時のままとなっています。

p175:色々変更

ぜひ単行本と見比べていただきたいと思います。雑誌掲載時の流れとしては、1コマ目麻弓台詞「USAくん♡ やるなこいつめぇぇエエ"エ"

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 「どこからでも切れる~」が削除され代わりに「最大出力で心と一緒に体もスパーク~」台詞が追加され、それに伴い周辺の台詞の配置が変更されたかたちです。その他影や効果の描き込みが追加されていますが、特に麻弓さんの表情の変化がおぞましいです。

f:id:sail_kamihitoe:20150301134149p:plain f:id:sail_kamihitoe:20150301134205p:plain魔弓さん…

p176 3コマ目:シロ服にトーン追加

貼り忘れかと思われます。ヒャッホゥ!

p177 4コマ目:椎名の口削除

p181 1コマ目:集中線トーンが吹き出し内から削除

同 5コマ目:麻弓台詞変更「わけわからんがクソ腹立つ」→「わけわからんがクソイラァ」&擬音「ドゴォ」派手に描き直し

p182,183:描き下ろし

シロさんの宇佐へのアドバイスが炸裂する(しない)描き下ろし2ページ。これまで見てきた例と同じく、ここでも描き下ろしページ前後の構成に変化が見られます。p181の5コマ目の宇佐ナレーション「俺の恋愛劇場は空回ってなんかない そりゃ劇的な展開はないけど/ちゃんと変わってるんだから」が少し文面を変えてp183の3コマ目へ移動しています。

p184:描き込み追加

雑誌掲載時は他のページに比べ全体的に描き込みが薄く、人物の目が白抜きとなっていたのが修正されました。おつかれさまです…!

p185 2コマ目:高橋の顔描き直し

f:id:sail_kamihitoe:20150301142409p:plain f:id:sail_kamihitoe:20150301142419p:plain

 高橋はそんな顔しない、みたいな意志を感じます。

 

というわけで以上が6巻における主な加筆修正箇所でした。傾向としては線や影、トーンの追加が特に多く、やはり人物の描写に重きが置かれていると言えます。また描き文字・活字のバランスや集中線の配置など、画面全体の色合いや見やすさといった点にも意識的に取り組んでおられるように感じました。

椎名・高橋の登場により揺れ動く宇佐と律ちゃんをはじめ、人物の感情の揺らぎを表すような重要な場面において特に繊細な加筆修正が施されています。描き下ろしページの挿入は3箇所4ページにわたり、これは前回見た『恋愛ラボ』よりも多いですね。描き下ろされる場面は総じて登場人物の内面を掘り下げる重要な役割を果たしており、何気ないやりとりの中で第三者の示唆に富んだ台詞が飛び出す点も見逃せません。シリアスパートにおけるシロさんの役割が固まりつつある気がします。整合性をとるため前後のページの台詞や構成が変更されるものの、コマ割りや人物の配置、吹き出しの位置などはそのまま流用されるパターンが多く見受けられ、再三言ってますがこれは結構凄いことをやってのけてるのではと感じます。

その他の修正箇所としてはやはりスタンガン片手に長広舌かます麻弓さんが印象的です。『河合荘』のネタ出しに四苦八苦しているというのはいつだったか宮原先生自身が仰っていたことですが、こういう小ネタに関しては引き出しが無数に存在しているのだなと感心することしきりです。この言語感覚がギャグシーンにおける魅力を生み出していることは言うまでもありません。

こうして一つ一つ見ていくと改めて加筆修正箇所の多さに驚きます。時間的な制約により連載では満足の行く出来に持って行くことが難しいからなのか、単行本に対するサービス精神が現れなのかは図りかねますが、なんとなく前者な気はします。これだけの加筆修正量は売りにしても良いぐらいだと思うのですが、元々頭に思い描いている描写に近づけることが目的なのだとすれば、さもありなんといったところでしょうか。

連載だけで満足しているという方にも、一読の価値は大いにあると声を大にして言いたい、と同時に、このように見比べる歪んだ楽しみ方ができるので単行本派の方もぜひ「アワーズ」本誌をお手にとってみてはいかがでしょう、と布教することで締めとさせていただきます。

ヤングキングアワーズ 2015年 04 月号 [雑誌]